民族楽器サーランギーはインドやその周辺でもっとも知られている伝統弓奏楽器。世界中で利用可能なリュート属擦弦楽器でインドの楽器の中では最も人間の声に近い楽器とされています。サーランギーは弦を弓でこすって音を出す楽器で、主にインドの伝統音楽で使用されます。北インド,ネパール,パキスタンなどに分布していてそれぞれの地域で独自の進化を遂げている楽器です。現在では広く認知されている楽器で世界に知られています。
起源と歴史
インドでこの楽器は生まれました。アジアで打楽器とともに使われる用品でベトナムなど東南アジアでもユーザーがいます。
🕉️ 1. 起源 ― インド古典音楽における誕生
- サーランギーの起源は、15〜17世紀頃の北インドに遡ります。
- サンスクリット語の「Sau Rangi(百の色)」が語源で、
→「多彩な音色をもつ楽器」という意味を持ちます。 - 元々は民族楽器「サリンディー(Sarinda)」やラージャスターン地方の擦弦楽器が原型になったとされます。
- 初期のサーランギーは、宗教的な儀式や民間の舞踊伴奏に使われていました。
🏵️ 2. ヒンドゥスターニー音楽への導入(17〜18世紀)
- ムガル帝国時代(16〜18世紀)に、サーランギーは**北インド古典音楽(ヒンドゥスターニー音楽)**の世界へ取り入れられます。
- この時期、サーランギーは主に**声楽(カヤール)やトゥムリ(Thumri)**の伴奏に使われるようになりました。
- 「人間の声に最も近い楽器」として評価され、歌の情感を補う役割を果たしました。
- 一方で、当時の音楽界ではサーランギー奏者は社会的に低い地位に置かれ、宮廷音楽では「タブラ奏者や舞踏家の伴奏者」と見なされることもありました。
👑 3. 宮廷音楽・声楽伴奏の黄金期(18〜19世紀)
- デリー、ラクナウ、ベナレスなどの宮廷でサーランギー奏者が重宝されました。
- 有名な声楽家とともに演奏し、ラーガ(旋律型)を声楽のように再現できる弦楽器として発展。
- サーランギーの構造も改良され、共鳴弦(タール弦)が増やされ、音の深みが増しました。
- この頃、**サブリ・ハーン家(Sabri Khan family)**など伝統を受け継ぐ名門家系が登場します。
⚙️ 4. 20世紀初頭 ― 社会的偏見と衰退
- イギリス植民地時代の影響で、インドの伝統音楽は一時的に衰退。
- サーランギーは「舞踏家や遊女(タワイフ)の伴奏楽器」とされ、上流階級の音楽教育から除外されました。
- そのため、教育機関で教えられず、演奏家が減少しました。
🌅 5. 再評価と近代化(20世紀後半〜現在)
- 1950年代以降、アリ・アクバル・カーン、スルタン・カーンなどの名奏者が登場。
- 古典音楽におけるサーランギーの地位を回復させ、世界的に注目を集めました。
- 特に**スルタン・カーン(Ustad Sultan Khan)**は、
- ラヴィ・シャンカルやジョージ・ハリスンとも共演し、
- 映画音楽やフュージョンにもサーランギーを導入。
→ 世界にその音色を広めました。
- 現在は、ボリウッド映画音楽やワールドミュージックでも広く用いられています。
特徴と構造、サイズ
「特徴・構造・サイズ」を、図解的にわかりやすく説明します。
🎻 サーランギーの特徴(Summary)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 擦弦楽器(弓で弦をこする弦楽器) |
| 起源地 | 北インド(特にラージャスターン州・ウッタル・プラデーシュ州) |
| 音色の特徴 | 人の声のように柔らかく、哀愁と深みのある音 |
| 主な使用分野 | ヒンドゥスターニー古典音楽、民俗音楽、ボリウッド映画音楽 |
| 構え方 | 膝の上に立てて縦に構える(ヴァイオリンのように肩に乗せない) |
| 象徴的特徴 | 「声楽の影の伴奏者」— 声の表情を弦で再現できる |
🪵 構造の詳細
サーランギーは、見た目は小型のチェロや縦型ヴァイオリンのようですが、
内部構造は非常に複雑で、弦の数も多いのが特徴です。
🔹 主な構造部位
| 部位 | 説明 |
|---|---|
| ボディ(共鳴胴) | 一塊の木(主にチークやマホガニー)をくり抜いて作られる。上面は薄いヤギ革で覆われ、柔らかな共鳴音を出す。 |
| ネック(棹) | 指板はない。弦はネックの上を浮いて通る。左手の指の爪や側面で弦を押さえる。 |
| 主弦(メインストリング) | 通常3〜4本。主にガット弦またはスチール弦。メロディーを演奏する。 |
| 共鳴弦(シンパセティック・ストリングス) | 30〜40本ほど。主弦に共鳴して独特の深みのある音響を生み出す。 |
| 弓(ボウ) | 馬の毛を張った弓で、右手でこすって音を出す。バイオリンより短く柔軟。 |
| ペグ(糸巻き) | 木製のペグで多数の弦を個別に調律する。上部に10個以上並ぶことも。 |
| 駒(ブリッジ) | 弦を支え、音を共鳴胴へ伝える。角度が急で独特な構造。 |
🎼 弦の構成イメージ
主弦(3〜4本) → メロディを演奏
共鳴弦(約30〜40本) → 音に深みと響きを加える
🧩 合計弦数:35〜45本前後
この「共鳴弦」の存在がサーランギー最大の特徴で、
演奏中に触れていない弦が自然に共鳴して、独特の**倍音の層(ハーモニクス)**を作り出します。
📏 サイズと形状
| 部位 | 平均寸法 | 備考 |
|---|---|---|
| 全長 | 約55〜65cm | ネパール製はやや小型(40〜50cm) |
| 幅 | 約20cm前後 | 共鳴胴の最も広い部分 |
| 厚み | 約10cm前後 | 手工品により差あり |
| 重量 | 約1〜1.5kg | 木材の種類により変動 |
サーランギーは膝の上に立てて弾くため、ヴァイオリンよりも縦長。
重心が低く、安定して構えることができます。
🪶 音響的な特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 音域 | 約3オクターブ(C3〜C6程度) |
| 音色 | 暖かく、哀愁と深みのある音。人の声のような滑らかさ。 |
| 共鳴 | 共鳴弦が主弦の振動を受けて共鳴。音の余韻が長く広がる。 |
| 表現力 | ビブラートやグリッサンド(滑音)を柔らかく表現可能。 |
🪔 素材の特徴
| 部位 | 使用素材 |
|---|---|
| 本体 | チーク材、マホガニー、シーシャム(インド紫檀)などの硬木 |
| 共鳴胴の皮 | ヤギ皮(柔らかく反応性が高い) |
| ペグ | ローズウッドや象牙代替樹脂 |
| 弓毛 | 馬の尾毛 |
| 弦 | ガット弦(羊腸)または金属弦 |
🧭 デザインの種類
- 北インド型(Hindustani Sarangi):大型で共鳴弦が多い。古典音楽向け。
- ラージャスターン型(Rajasthani Sarangi):小型で民俗音楽用。装飾が多い。
- ネパール型(Nepali Sarangi):簡易型で弦が4本のみ。主に民謡用。
種類について詳細
サーランギー(Sarangi)は、地域や用途によって複数の種類・系統があります。それぞれ構造や弦の数、音色、演奏用途が異なります。ここでは詳細にまとめます。
🪶 1. 北インド型(Hindustani Sarangi)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域 | 北インド(デリー、ラクナウ、ベナレス) |
| 弦の数 | 主弦 3〜4本、共鳴弦 30〜40本 |
| サイズ | 長さ:約60cm、幅:約20cm |
| 特徴 | 古典ヒンドゥスターニー音楽に最適。 人の声に最も近い音色。豊かな共鳴。 |
| 用途 | 声楽伴奏(カヤール、トゥムリ)、古典演奏、舞台音楽 |
| 奏法 | 左手は爪や指の側面で弦を押さえ、右手で弓を擦る。 |
北インド型は「クラシック向けプロ仕様」とされ、共鳴弦が多く、音色が非常に深く豊かです。
🏵️ 2. ラージャスターン型(Rajasthani Sarangi)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域 | インド・ラージャスターン州 |
| 弦の数 | 主弦 3本、共鳴弦 15〜20本程度 |
| サイズ | 長さ:約50〜55cm、幅:約18〜20cm |
| 特徴 | 民俗音楽向け。小型で装飾が多い。比較的軽量で持ち運びやすい。 |
| 用途 | 民族舞踊伴奏、民謡演奏、祭り・行事 |
| 奏法 | 主にリズムを伴いながら歌の伴奏を行う。 |
民俗音楽向けに最適化されており、音色は北インド型より明るく、共鳴感はやや控えめ。
🌄 3. ネパール型(Nepali Sarangi)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域 | ネパール(特に中部・西部) |
| 弦の数 | 主弦 3〜4本、共鳴弦 4〜6本(簡易型) |
| サイズ | 長さ:約40〜50cm、幅:約15〜18cm |
| 特徴 | 小型で簡素。持ち運びやすく、民間の旅芸人や民族音楽向け。 |
| 用途 | 民族歌(Gaine songs)、祝祭・物語語り |
| 奏法 | 左手で指押さえ、右手で弓を擦る。共鳴弦が少ないため音量控えめ。 |
ネパール型は「民俗演奏のシンボル」とされ、民族文化の伝承に重要な役割を持ちます。
🎼 4. パキスタン型(Sarinda / Sarangi)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域 | パキスタン・パンジャーブ地方 |
| 弦の数 | 主弦 3本、共鳴弦 10〜15本程度 |
| 特徴 | 民族音楽用に発展。ネパール型に似るが、やや低音寄り。 |
| 用途 | 民謡演奏、儀式音楽 |
| 奏法 | 北インド型より簡素化され、リズム重視。 |
🪷 5. 現代型・フュージョンサーランギー
- 近年、ワールドミュージックやジャズ、映画音楽向けに改良されたモデル。
- 特徴
- 弦の素材にナイロンやスチールを使用
- 共鳴弦数を減らし、音量と取り扱いやすさを向上
- 電子ピックアップを搭載するモデルもあり、ステージ演奏に適する
- 用途:ライブ演奏、映画音楽、フュージョン

サーランギーの音色
サーランギーはインドの伝統音楽で広く使われている楽器です。
奏法、難易度
サーランギー(Sarangi)の奏法と難易度について詳しく解説します。
🎻 サーランギーの奏法
1. 構え方
- 膝の上に縦に立てて構える(ヴァイオリンのように肩に乗せない)
- ボディは膝と腿で安定させる
- 弓を右手で持ち、左手で弦を押さえる
2. 弦の扱い
- 主弦(メロディ弦):3〜4本
- 左手の指の爪や側面で押さえる
- 指板がないため、正確な押弦位置の感覚が必要
- 共鳴弦(シンパセティック弦):30〜40本(北インド型)
- 直接弾かず、主弦の振動で共鳴
- 音色に深みと倍音を加える
3. 弓の使い方
- 馬の毛を張った弓を使用
- 弓を縦方向に動かして弦を擦る
- 右手の圧力と角度で音量・音色・ビブラートをコントロール
- 弓の滑らかな動きが人の声の表情を作る鍵
4. 音程・装飾技法
- ビブラート(Gamaka):弦を押しながら微妙に揺らして、声のような震えを表現
- グリッサンド(滑音):指の爪で滑らせて音程を連続的に変化させる
- 装飾音(Ornamentation):カヤールやトゥムリの旋律に合わせた細かい音の装飾
5. 音楽的役割
- 声楽伴奏:人の声のピッチや表現に合わせて音を追従
- 独奏:旋律だけでなく、微妙な表現力が求められる
- 民俗音楽:リズムや雰囲気を重視し、装飾は控えめ
⚡ 難易度
サーランギーは、世界で最も難しい弦楽器の一つとされます。理由を整理します。
| 難易度の理由 | 詳細 |
|---|---|
| 指板がない | 左手は「指板を見ずに弦を押さえる」ため、正確な音程感覚が必要 |
| 多弦構造 | 共鳴弦が30〜40本あるため、弓の圧力や位置で倍音を調整する技術が必要 |
| ビブラート表現 | 微妙な音程変化を滑らかに出す必要があるため、声楽的な耳と演奏技術が必須 |
| 弓操作 | 弓圧・角度・速度で音色や音量を自在にコントロールする難しさ |
| 音感と記憶 | 正確な音程を目視で確認できないため、絶対音感や音の記憶が重要 |
| メンテナンス | 弦の張替え、共鳴弦の調律、皮張りの管理が複雑 |
有名な奏者
サーランギー(Sarangi)の有名な奏者について、時代背景や特徴も含めて詳しくまとめます。
🌟 北インド・古典音楽の巨匠
1. サブリ・ハーン(Sabri Khan)
- 出身:インド・デリー
- 時代:1927〜2015
- 特徴:
- 北インド古典音楽の伝統的スタイルを継承
- 声楽に近い表現力で、非常に感情豊かな演奏
- 国内外で演奏活動を行い、インド政府から多数の文化賞を受賞
2. スルタン・カーン(Ustad Sultan Khan)
- 出身:インド
- 時代:1940〜2011
- 特徴:
- 古典音楽だけでなく、ボリウッド映画音楽やワールドミュージックでも活躍
- ラヴィ・シャンカルやジョージ・ハリスンと共演
- グラミー賞受賞プロジェクトに参加
- 人間の声を再現する技巧で「世界的サーランギー奏者」と称される
3. ランジット・パンデ(Ranjit Pandey)
- 出身:北インド
- 特徴:
- 伝統的な北インド古典音楽の正統派奏者
- 伴奏だけでなく独奏演奏も評価される
- 古典的演奏技法の教育・伝承にも力を注ぐ
🏞 民族音楽・地域の名手
4. カマル・サッバール(Kamal Sabbar)
- 出身:ネパール
- 特徴:
- ネパール民族音楽の重要なサーランギー奏者
- 民謡や旅芸人(Gaine)の演奏を支え、文化伝承に寄与
5. パキスタンのサーランギー奏者
- パキスタンでは民俗音楽向けに「Sarinda」やSarangiを演奏する名手が存在
- 地域民謡や祝祭音楽で活躍

新品と中古の製品ラインナップと価格相場
民族弦楽器 サーランギー(Sarangi)の新品・中古の製品ラインナップと価格相場について、国内/海外の参考情報を整理します。あくまで目安であり、仕様・材質・産地・品質・付属品などにより大きく変動します。
🎯 製品ラインナップ例
以下、製品検索でヒットしたサーランギーの例を挙げます。
それぞれ簡単に説明します:
- Carved Sarangi -2:比較的手頃な価格のモデル。ネパールもしくは量産系かと思われます。
- Special Khiro Sarangi:中級仕様と思われる“Special”表記あり。材質・仕上げがやや上。
- Red Jatayu Sarangi:色付き・装飾ありの仕様。価格も中~上級寄り。
- Vintage Jogiya Sarangi (Rajasthan):ヴィンテージ仕様/ラージャスターン州由来。収集価値・質が高め。
- Decorative Sarangi with Stand:装飾・展示用モデル。演奏向けというよりインテリア寄り。
- North India Instrumental Sarangi CD (参考):楽器本体ではなく、参考音源CD。音質確認用途として。
- (※重複モデルをラインナップに入れていますが、仕様違いや再掲という形でご了承下さい)
📊 価格相場(新品/中古)
以下、ウェブ上で確認できた価格例をもとに、価格帯を整理します。
✅ 新品(入門〜演奏向け)
- インドのオンラインショップで「Learner Sarangi」など入門用で ₹ 13,650(約 ¥24,000〜) 程度。
- 同じく「Premium/Professional Sarangi」クラスで US$ 519(約 ¥90,000〜) 程度。
- あるインド店でプロ仕様の Sarangi が ₹ 70,000(約 ¥115,000〜) 程度。
⚠ 中古/低価格/装飾用(参考)
- ネパール/展示用モデルで「Decorative Sarangi with Stand」などが ¥7,272 程度という価格。
- ヴィンテージ仕様(ラージャスターン系)で約 ¥49,728 程度。
📋 価格帯まとめ(目安)
| グレード | 価格帯(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| 入門モデル | 約 ¥20,000〜¥40,000 | 初心者/練習用。材質・弦数が簡略化。 |
| 中級モデル | 約 ¥60,000〜¥150,000 | 演奏向け。主弦・共鳴弦ともに仕様が良い。 |
| プロ/ヴィンテージ仕様 | 約 ¥150,000以上 | 名工製作、装飾・材質上質、収集価値あり。 |
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